前頭前野の3つの部分
滋賀県立成人病センターの長濱康弘氏が、「変性疾患と前頭前野」という論文を掲載している(注1)。これで、前頭前野の3つの部分のあることを説明しておられる。
背外側前頭前野
眼窩前頭皮質
前帯状回
それぞれの部位に障害があると、次の機能に障害が生じる。(672頁)
前頭前野の部位
障害される機能
背外側前頭前野
注意制御
=持続性、選択性、分配性。
実行機能
=(目標設定、計画をたて、それにそって行動し、モニタリング、行動を制御)。行動・発話:を行うにあたり時間の前後関係を統合的に調節する。選択的注意、Working memory、予測的構え、モニタリング。
発動性、発話、構えの転換、計画性、問題解決能力。
眼窩前頭皮質
転導性・被刺激性の亢進
=すぐ気が散って本来の行動が中断する、模倣行為、衝動的行動。
社会性の障害
=抑制のきかない、無神経な、場面に不適切な行動がみられる。
前帯状回
アパシー
=発動性低下、意欲低下、発語低下、運動量低下、無関心、無感動
認知症の患者で、認知機能の低下した人が、単純計算の作業を繰り返すと、前頭前野の背外側部が活性化して、症状が改善する(2)。
うつ病の人は、安静時の脳血流・代謝に関しては、左の前頭前野や帯状回前部での低下がみられる (3)。
こういう脳神経の研究によって、うつ病は、前頭前野の機能が低下しているようであるから、抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害)できかない患者には、他の方法で、前頭前野を活性化できないかどうかが新しい治療法の開発の方針としてうかびあがる。川島氏の研究によって、薬物療法ではなくて、作業療法によって、前頭前野を活性化できるということがわかったことは朗報であろう。
うつ病の場合には、どのような作業をすれば、うつ病が改善するのか、研究の価値がある。アメリカで、「行動活性化療法」で、うつ病に効果があったのも、その行動が、前頭前野の活性化になっているのではないだろうか。薬物療法絶対主義ではなくて、こういう、うつ病の新しい心理療法を開発する研究が、日本でも真剣に行われることによって、うつ病、自殺が減少していくだろう。うつ病の問題は、セロトニン神経だけではないようだ。
(注1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、Vol.23。頁は、これによる。(注2)以外の引用は、長濱氏の論文から。
(注2)同上、東北大学、川島隆太氏、625頁。
(注3)同上、広島大学の岡本泰昌氏および山脇成人氏、679頁(関連記事)
うつ病と前頭前野
(図1)機能別にみた前頭前野と皮質下核を結ぶ神経回路(672頁)
背外側前頭前野
(DLPFC)
←┐
眼窩前頭皮質
←┐
前帯状回
←┐
↓
↑
↓
↑
↓
↑
尾状核(背外側)
↑
尾状核(背内側)
↑
側坐核
(腹側線状体)
↑
↓
↑
↓
↑
↓
↑
淡蒼球(背側)/黒質
↑
淡蒼球(内側)/黒質
↑
淡蒼球(腹側)/黒質
↑
↓
↑
↓
↑
↓
↑
視床
(前腹側、背内側)
→┘
視床
(前腹側、背内側)
→┘
視床
(背内側)
→┘